FC2ブログ
せつない気持ちを綴った恋愛小説
2008.02.25
Vol.20 祈り
 私は毎晩、太陽神ラーに祈りを捧げていました。「我が父、太陽神ラー、私はどうしていいのかわかりません。私を取り巻く環境に付いていくことが出来ません。どうか私を見守ってください。私はあなたの娘としてこれからも清く生きていきます」と。私にとって毎晩捧げる祈りは、私の心を落ち着かせ、私が太陽神ラーの娘であることを自分自身に言い聞かせるために、とても重要な役割をになっていました。祈りの後、私は頭上に日輪の重みを感じ、そして日輪の存在を前にした私は、煩悩である性や恋愛などの一切を忘れることが出来ました。

小説ランキングに参加しています。更新していく励みになっていますので、クリックして頂けますようお願い致します
スポンサーサイト



太陽ナデシコ | CM(5) | TB(0) | PAGETOP
2008.01.16
Vol.19 机上の空論
 学校での騒ぎも治まり、私も冷静になりかけた矢先のことです。降って湧いたような事件に見舞われました。庭先に干してあった私の下着が盗まれたのです。そのためにフリルやリボンの着いたショーツやブラジャーの半分以上が失くなってしまいました。「気持ち悪いわね」と言っていた両親も二度目の盗難で初めて、「下着の盗難だけならまだしも、まだ嫁入り前のナッチャンの身に万一のことが起きたらどうしよう」と、学校や警察に相談しに行ったようでした。万一のこととは、嫁入り前の身体を傷物にされるという発想だったのでしょう。私自身、結婚するまで処女を押し通したいという特別な思い入れはありませんでした。けれど誰から構わずに身体を進呈したいとも思いません。ただ「性行為」には殊の他興味を抱いていました。両親はテレビの場面にベッドシーンが登場すると決まってチャンネルを変えます。男性と女性の身体の構造は知っていましたし、「射精」や「勃起」という単語もわかります。けれど、私が知っているのは友だちから訊いた情報と、保健体育の授業という机上の空論でしかなく、実際の所、性器の結合がどのように行われるのか皆目見当が付かなかったのです。

小説ランキングに参加しています。更新していく励みになっていますので、クリックして頂けますようお願い致します
太陽ナデシコ | CM(0) | TB(0) | PAGETOP
2008.01.14
Vol.18 味方
 それからしばらくは教室でも廊下でも行き合う男子生徒に「俺にもオッパイ見せてくれよ」と毎日のように冷やかされ続けました。冷やかしと悪質な悪戯に学校へ行くのが嫌になりました。あの日を境に私の顔写真を全裸写真にすり替えたものや、性器の形を漫画にした宛て名のない手紙が送られてくるようになったのです。
 私はそれらの手紙を鈴音ちゃんに見せました。
「ひどいことするよね、今度ホームルームで取り上げよう」
 鈴音ちゃんの憤慨の空気が私の身体に伝わってきました。
「気にしないようにしてるから」
 嘘をつきました。本当は気になって仕様がないのです。だから学校へ来るのも嫌なのだと声を上げたかったのです。けれど私は逃げ出してしまいたい気持ちを太陽神ラーへ祈ることで必死に抑えていたのです。鈴音ちゃんは私の手を握りました。
「ナッチャン。男子はね、みんなナッチャンのことを注目してるの。なんとかして気を引きたいのよ、振り向いてもらいたいのよ。私たち女子から見たらすごい幼稚だと思うけど。男子ってそんなふうにしか表現出来ない生き物なのよね。この前の噂の時もそうだけど、普通にしていたらそのうち誰も言わなくなるから」
「ありがとう、鈴音ちゃん」
 鈴音ちゃんが心強い味方でいてくれたことは、私の何よりの救いでした。

小説ランキングに参加しています。更新していく励みになっていますので、クリックして頂けますようお願い致します
太陽ナデシコ | CM(0) | TB(0) | PAGETOP
2008.01.13
Vol.17 アクシデント
 その日の午後、とうとう水泳の時間が来てしまいました。私はわざと水着を忘れた振りをして授業をサボタージュしようとしましたが、先生は欠席を許可してくれません。止むなく、私は先生の黒い水着を借りて授業に臨みました。先生は大柄な方だったので、水着にはゆとりが有り過ぎる程でしたが、他に代わりはありませんので仕方なく着用しました。水着が緩いせいか、体の線が強調されるよりも皺が目立つという感じで思った程に違和感が有りませんでした。
 授業はクロールでした。水に入ると午前中までの鬱々とした気持ちも消え、久々に身体一杯の水しぶきを浴びました。泳ぎは得意な方でしたので、先生の指示通り25mを問題なく泳ぎきりました。私が息を弾ませてプールから上がると、周囲に異様などよめきが起こりました。何事かと思っていると側へ鈴音ちゃんが駆け寄ってきて、「ナッチャン、水着が、胸が・・・」指が私の胸を差しています。ふと視線を落とすと、ずれた水着の上に露出した乳房が二つ、陽の光を受けて水滴を垂らしているのです。「あっ」衝撃が身体を駆け抜けます。慌てて後ろを向き、乳房を水着に戻します。「おーい、誰かカメラ持ってこいよー」「隠すなよー」男子の嬌声が上がりました。「嫌っ」私は顔を両手で覆いました。「アンコール」「もっと、見せてぇー」嵐のように吹き荒れる声。鈴音ちゃんの「止めなさいよっ!」の一喝にも興奮の声は止みません。鈴音ちゃんを始めとして女子が私を取り囲むよう集まってきて、「ナッチャン、気にしちゃ駄目よ」「ドンマイ、ドンマイ」それぞれに慰めの言葉をかけてきます。乳房を見られた恥辱と女子の憐れみを受け、これは単なる事故なんだから気にしちゃダメと、自分自身をなだめていましたが、鈴音ちゃんの心配そうな顔へ「大丈夫よ」と微笑んだ途端、涙がとめどもなく溢れ出てしまいました。プールサイドでは男子が身体をくねらせながら「嫌よぉん、そんなに見ないでぇ」と、胸を手で隠しおどけています。「あんた達、もういい加減にしなさいよっ!」鈴音ちゃんや女子たちの怒鳴り声に気が遠くなって、その場に座りこんでしまいました。私はベンチで見学するように言われ、皆が泳いでいる姿をぼんやり眺めていました。私と視線が合うと「アンコール」そう言ってふざける男子にため息ひとつさえ出ませんでした。

小説ランキングに参加しています。更新していく励みになっていますので、クリックして頂けますようお願い致します
太陽ナデシコ | CM(0) | TB(0) | PAGETOP
2008.01.12
Vol.16 クラスメート
 鈴音ちゃんは一人っ子の私と違い、お兄さんがいたためか何んとなく男っぽい印象を与えていました。「女子といるより男子の方が気楽」と話す通り、時々男子に混じって話をしていました。顔中に吹き出たニキビを気にしているにもかかわらず、「クレーター」や「クレ子」と呼ばれても動揺せず、その態度は冷静沈着でした。学級委員長でテニス部の副部長をこなしている明るく活発な鈴音ちゃんに、私は敬意さえ抱いていました。
 そんな鈴音ちゃんも普通の女の子同様、悩みを抱えていました。彼女はクラスメートの男子に恋をしていたのです。困ったことにその男子は私に交際を申し込んでいた人でした。私は彼女を傷つけることを恐れて、なかなかその事を打ち明けられませんでした。
「ナッチャンだったら告白する勇気ある?」
そう呟く鈴音ちゃんに、
 時々こっちを見ているから、もしかしたら鈴音ちゃんに気があるんじゃないの」
 私は喜ばせようと安易に口走り、その軽率な一言を後悔しました。
「夏休みになる前に打ち明けてみようかな」
 期待を膨らませる鈴音ちゃんの乙女心を感じて、恋とは無縁の私の胸まで苦しくなりました。浅薄な私は、鈴音ちゃんの恋が実るようにと密かに行動を起こしました。鈴音ちゃんの想い人の彼が、私への恋心を断ち切ることで、鈴音ちゃんへ眼を向けてくれるかも知れないと解釈したのです。私は彼が放課後に一人でいる時を見計らって「ごめんなさい。私には他に好きな人がいるの。この事は誰にも言わないで」と書いたメモを手渡しました。それから数日後、「南條は男嫌いの振りをして誰かと付き合っている」という噂がまことしやかに広まりました。噂の主があの男子だろうとメドはついていましたが、私は素知らぬ振りをしていました。周囲の女子から「誰と付き合っているの?」と興味津々に尋ねられる度に、私はイタリアの映画俳優の名を答えて「好きなのは彼だけ」そう応えていました。結局、私の作戦は失敗に終わり、鈴音ちゃんは告白をためらい、例の男子も鈴音ちゃんへ思いを寄せることも有りませんでした。それでも鈴音ちゃんは、「彼がロングヘアが好きだと言ってたから髪を伸ばそう」と惜しみなく努力をしていて、その姿はたまらなく可愛くて、私が男だったら、鈴音ちゃんと付き合いたいと感じたぐらいです。

小説ランキングに参加しています。更新していく励みになっていますので、クリックして頂けますようお願い致します
太陽ナデシコ | CM(0) | TB(0) | PAGETOP
2008.01.11
Vol.15 逆さテルテル坊主
  そのため、よく水泳の授業を欠席しました。体育の先生が女性であったため、「生理中です」と言って再三ごまかしてきたのですが、それもだんだんと見透かされ、とうとう次回からは出席しなさいときつく注意を受けてしまいました。授業の前日に大雨にでもなればいいと部屋のベランダにテルテル坊主を逆さにして吊るしたりもしました。けれど翌朝は雲一つない冴え渡った青空が拡がっています。私は諦めもつかず気鬱なまま学校へ向かいました。授業中も空ばかり眺め、ため息をついていました。授業毎に先生が入れ代わり立ち代わり「南條くん、今日は具合でも悪いのかな」と私を覗き込みにきましたが、「いいえ、大丈夫です」と無理なお愛想笑いを浮かべる有り様でした。隣の席の鈴音(すずね)ちゃんが私の肩を人指し指で突つきます。先生に見つからないように、机の下で手渡されたメモを受け取りました。「いい加減に水泳の授業に出席したら。嫌なのはわかるけど!」と丸い文字で書かれています。私はそれをペンケースに納めると、鈴音ちゃんの机に目立たないよう手を伸ばして、指でOKのポーズを出しました。依然として心の中ではOKではなかったのですが。それでもなんとか雨が振って欲しいと願う私は、空を眺めるのは止める変わりに、シャーペンで机に逆さのテルテル坊主を描くことで気を紛らわせていました。鈴音ちゃんは横から首を伸ばしてきて「諦めが悪いんだから」と小声で呟いていたようですが、私はその声を無視して授業が終わるまで机一杯に逆さテルテル坊主を描き続けていました。

小説ランキングに参加しています。更新していく励みになっていますので、クリックして頂けますようお願い致します
太陽ナデシコ | CM(0) | TB(0) | PAGETOP
2008.01.10
Vol.14 スクール水着
  生理は訪れる度に、私の身体を女性らしい体つきへと変化させました。三年生になった頃には、制服のブラウスのボタンが弾き飛ばされそうなまでに乳房が成長し、腰はみるみる細くなり、お尻は小高く盛り上がる丘のように丸みを帯びてきました。そうなると、私の顔だけに向けられていた視線の行き先がだんだんと身体へ移るようになり、私は男の視線を恐れると同時に、見られている恥ずかしさに打ち震えました。
 夏場の体育、ことに水泳の授業は私の精神的限界の頂点に達していました。スクール水着はその一枚の布に乳房の形と股に出来る二つの分かれ目の線を露わにさせました。公衆の面前に裸同然の姿を曝け出さなくてはならないスクール水着をどんなに着用したくないと拒否したくても、授業という名目で着用を強制されました。そもそも個人としての自由や尊重など学校には存在しないのです。水泳の授業開始時、プールサイドの両側に向かい合わせで男子と女子が一列に並びます。「身体の品評会だ」と言うある男子の言葉通りです。その場で男子たちは誰それの胸が大きい、小さいと女子の姿を眺め、「アイツは揉み心地が好さそうだ」などと露骨な発言を耳にする度に「性」を認識させられ、私は激しい憤りを感じていました。

小説ランキングに参加しています。更新していく励みになっていますので、クリックして頂けますようお願い致します
太陽ナデシコ | CM(0) | TB(0) | PAGETOP
2008.01.09
Vol.13 初潮
 中学二年生の春、私の身体に異変が訪れました。初潮です。小学校の高学年のときから、保健体育の授業で「生理」については習っていたので、初潮について特にこれと言った不安はありませんでした。ママは「おめでたいことよ」そう言って、ママの使っている生理用品を私にくれました。私はママから、生理用品のつけ方や取り替え時期など、細々としたことを教えてもらっているうち、おばあさんになるまで生理と付き合うことを考え、それだけでうんざりしてしまいました。けれどお赤飯を炊いて喜ぶ両親には、そんな顔色一つ見せず、お祝いされて嬉しいフリをしてみせました。幼稚園や小学生の頃に比べると、お人形になっていることの抵抗感や辛さは一変し、お人形になっている私が人間界で生きる私のあるべき姿だと思うようになっていたのです。私にとって生理とは「大人の女性の仲間入り」「子どもを産める身体」という概念しかありませんでした。それが一体どれ程の価値を持つものなのか、そしてまた大人の女性が、生理という代償の代わりにどれ程の充足を得ているのか、私は疑問に思いました。少なくとも、私は子供でいる方が有り難かったのです。大人のジャングルへ解き放たれ、野獣の男が待ち受ける世界で、女の身体を自己防衛して生きる苦労を考える年頃になったとは不幸としかいいようがありません。

小説ランキングに参加しています。更新していく励みになっていますので、クリックして頂けますようお願い致します
太陽ナデシコ | CM(1) | TB(0) | PAGETOP
2008.01.08
Vol.12 恋愛観
 中学生になると、男子も女子も一斉に男女交際を始めました。その様子を私はひたすら傍観していました。相手がいないからではありません。相手を求めなかったからです。私の机の中や下足箱の中には毎日大量の手紙が入れられていました。下校時には待ち伏せされて告白されることも珍しくありません。手紙は家にまで届けられ、「ナッチャンのラブレターでうちの郵便箱は破裂しちゃいそうね」とママが笑いかけてきても、パパが「外見だけで付き合いたいという奴はろくなもんじゃない」とむっつりしても「私が大好きなのはパパとママだけなんだから」口ではいつもそう繰り返していました。
 その当時の私は、男子などまるで眼中になかったのです。人に恋をする。その感情すら理解出来ずにいました。何故、子どもの頃は私の微笑みだけで満足していた男子が、恋をすると私を独占しようとするのか、何が彼らを追い立てているのか、それすらわからないのでした。流行りの恋愛小説や映画からも答えを探し出すことは出来ずにいた私は、敢えてそれ以上探そうとも思わなくなりました。
 所詮、檻という学校の中で、鉄格子の規則から逃れられない哀れな獣たちは、義務教育の枷(かせ)を嵌(は)められて出来た傷口を舐め合いたいがために、異性を求めているに違いないのです。私は「選ばれた神の子」、人間の恋愛になど構っていられない、真剣にそう思っていました。

小説ランキングに参加しています。更新していく励みになっていますので、クリックして頂けますようお願い致します
太陽ナデシコ | CM(0) | TB(0) | PAGETOP
2008.01.07
Vol.11 霞む友情
 小学校の卒業式の日、私はエミルちゃんや友だちと「みんな離ればなれになっても、今日のことはずっと忘れないでいよう」と涙を浮かべて誓いました。エミルちゃんや何人かの友だちとは学区の関係で別々の中学校に行くことになっていたのです。中学校に入り、仲良しの友だちが出来た頃、すでにエミルちゃんらとの友情は風に流された雲のように霞んでいました。

小説ランキングに参加しています。更新していく励みになっていますので、クリックして頂けますようお願い致します
太陽ナデシコ | CM(0) | TB(0) | PAGETOP
2008.01.06
Vol.10 選ばれた人間
   私は今までエミルちゃんをはじめ友人たちを羨んできました。彼女たちは普通の子どもなのです。勉強や運動の出来も可愛さも小学生の標準的なソレなのです。そのことで自分たちには際立つものがない、と彼女たちは時として不平の種のように言います。もっと可愛かったら、もっと勉強が出来たら、もっと運動が出来たら、運命が違ったのにと、こぼします。だからもっと可愛いかったら、そうでない子の何倍もの幸せと同じ位の不幸を背負わなければいけないとか、もっと勉強が出来たら、遊ぶ時間もなく何倍もの時間を勉強に費やさなくてはいけないとか、もっと運動が出来たら、頂点を極めるために何倍もの肉体的努力をしなければいけない、ということを考えられないのでしょう。私には人並みより秀でた子どもたちが可哀相でなりません。彼らも私と同じようにどんなに普通でいたいと望んでいても、そうすることを許されない身の上だからです。普通ではいられないもどかしさを、強い精神力に変えられれば問題はありません。さもなければ、四方から押し寄せてくる猛烈な圧力で一気に押し潰されてしまうからです。
 私も日輪が無かったら、周囲の過剰な要求に、疲れ果て押し潰されて、不登校児童になっていたに違いないのです。でも、私はある信念に支えられていたのです。私は「選ばれた人間」、私は「太陽神ラーの娘」なのだ、と。

小説ランキングに参加しています。更新していく励みになっていますので、クリックして頂けますようお願い致します
太陽ナデシコ | CM(0) | TB(0) | PAGETOP
2008.01.05
Vol.9 リップクリーム旋風
 翌日、学校中の女子の間でピンク色のリップクリーム旋風が巻き起こりました。女子は皆、私が買い求めたピンク色のリップクリームと同じものを唇に付けて登校してきたのです。エミルちゃんはグレープフルーツの匂いをまき散らす唇を光らせながら、「ナッチャンとお揃いなのよ」と眼をしばたかせ本当に嬉しそうです。聞いたところによると、町中のピンク色のリップクリームは売り切れになってしまい、買えなかった女子は学校を休むという事態にまで発展したらしいのです。校舎はグレープフルーツの匂いが充満し、見渡す限りどの女子の顔もてらてらと唇を光らせていました。それは一種異様な光景でした。
 しかし、私はその日から、髪を三つ編みにしてリボンを結ぶことも、ピンク色のリップクリームをつけていくこともしませんでした。
「なんで今日はリップをつけてこなかったの」
 エミルちゃんに昨日のファーストキスの話は出来ません。「ここだけの話なんだけど」そう言って噂が広まる姿が眼に浮かぶようです。
「どこかに落としちゃったみたい」
 私は咄嗟に嘘を付きました。リップクリームをつけると受難に遭うかもしれないと言った所で、エミルちゃんには理解できないでしょうし、私のことを綺麗なお人形として見ることしか出来ない彼女の期待を裏切ってしまうのも申し訳ない気がしたのです。
「そうなんだ、残念だったね、ナッチャン。ね、これ使っていいよ」
 そう言って私の唇にエミルちゃんはリップクリームを塗り付けました。ファーストキスの次は、エミルちゃんとの間接キスをしてしまうことになるなんて予想すらせず、これから大人になってもリップクリームだけはつけない。そう固く誓いました。
「うふふ、やっぱり、ナッチャンはリップクリームが似合うわ。いつもの三つ編みもいいけど、今日みたいなヘアスタイルもすごく可愛いいわよ、ナッチャン」
 と、私の顔を右、左と角度を変えて眺め、
「耳を出した方がいいかも」
 そう言って、今度は私の髪を片側の耳にかけました。エミルちゃんの伸びた小指の爪が私の頬をうっかり引っ掻いても、私は何事もなかったかのように、お人形と同じくじっとしていました。
「私もナッチャンのように可愛い子に生まれてきたかった」
 そう言い終わるまでエミルちゃんが離れていくのを待ち、新たな受難が降りかからないことと、早くこのリップクリーム旋風が過ぎ去ってくれることを願ってやみませんでした。

小説ランキングに参加しています。更新していく励みになっていますので、クリックして頂けますようお願い致します
太陽ナデシコ | CM(0) | TB(0) | PAGETOP
2008.01.04
Vol.8 日輪の重み
 私は空を見上げて叫びました。「あなたが、本当に太陽神ラーだったら、私を家に帰してください」私の思いとは裏腹に地上の人々は黒い蟻のごとくピラミッドへのぼり始めています。群衆の叫び声はいつのまにか「太陽神ラーの娘をつかまえろ」に変わりました。私は群衆につかまえられ、異邦の大地で一人骨になっていくのでしょうか。哀しみよりも運命の無慈悲さが恨めしくなりました。「家へ帰りたい」涙がはらはらとこぼれ出していきます。ママ、パパ・・・懐かしい顔が浮かぶと胸が締めつけられました。私はワラにもすがる思いで、「太陽神ラー、助けてください」と、心の底から祈りました。「我が娘よ」低い男の声が聞こえてきました。声は確かにあの人の声です。私はその次の言葉を待ちました。けれど言葉は何も聞こえず、キンとする耳鳴りが聞こえはじめ、私の頭上で大人しくしていた太陽が、暴れ狂ったように火の粉をまき散らしながら勢い良く燃え上がりました。私は頭がクラクラして、地面に腰を降ろしました。覚えているのはそこまでです。眼を開くと、私は先程の保健室のベッドで相変わらず横たわったまま寝ているのです。
 あれが夢だったとは思えません。なぜなら、あれ以来、私は頭上に日輪の重みを感じるようになったのですから。

小説ランキングに参加しています。更新していく励みになっていますので、クリックして頂けますようお願い致します
太陽ナデシコ | CM(0) | TB(0) | PAGETOP
2008.01.03
Vol.7 太陽神ラーの娘
 呪文の効果なのでしょうか、熱さとバチバチと唸る耳鳴りが次第に薄れていきます。その代わり、男の頭上の太陽は呪文の声と供に大きく左右へ激しく揺れ出しました。男は「ラー」と叫ぶと、持っていた杖を太陽めがけて高く掲げました。それと同時に男の太陽は火の勢いが弱まり、人の頭ほどあった形がきゅっと縮み、半分ぐらいの大きさになりました。その時です。男の身体が地面から離れ、音もなくスッと天上へと昇って行きました。私が呆然と見つめる中、「我等の偉大な神」「太陽神ラー」どよめく喚声が地上から沸き起こりました。いつのまに集まって来たのか、ピラミッドの周囲には何万もの群衆で埋め尽くされていたのです。群衆の声を聞いても男はどんどん天へのぼっていきます。「待ってください」私は空に向かって叫びながら立ち上がりました。おお、と地上から声が上ると、次に「太陽神ラーの娘だ!」と言う誰かの叫び声が上がりました。群衆は一斉に「太陽神ラー、万歳。太陽神ラーの娘、万歳、万歳」私の足元の遥か彼方から叫び出しました。私はその光景に圧倒され、「私は太陽神ラーの娘じゃありません、人間です」そう叫んでみましたが、群衆の歓喜の声にかき消されてしまうばかりです。もう一度空を見上げると男の姿はどこにもなく、雲一つない空に本物の太陽が容赦なく照りつけています。いったい私は何故この場所にいるのか、何故太陽神ラーの娘になってしまったのか皆目検討がつかず、家へ帰りたい、その思いで一杯になりました。

小説ランキングに参加しています。更新していく励みになっていますので、クリックして頂けますようお願い致します
太陽ナデシコ | CM(0) | TB(0) | PAGETOP
2007.12.02
Vol. 6 異邦の神
 ふと、誰かの視線を感じました。振り向くと、ハヤブサの仮面を付けた男の人が杖を手にして立っています。奇妙な感じがしたのは仮面のせいではありませんでした。頭の上に、本物そっくりの太陽が眩しい光を放ちながら輝いていたのです。太陽は人の頭と同じぐらいの大きさをして、それは夕陽のように美しいオレンジ色をしていました。この光景がとても不思議なはずなのに、私は驚くこともなく、違和感すら感じられません。この人には何故だか太陽があって当然の雰囲気があったのです。それにしても、この人は王様なのかしら。それとも神様なのかしら。私の考えなどお構いなしに無表情な仮面はこちらをじっと眺めていました。私は吸い付けられるようにその仮面を見つめていました。すると「選ばれし者よ」と、低い男の声が私の心の中へ響いてきました。「その方に日輪を授けん。されば気高く生きよ。魂が尊ければ日輪は永久にその方と供にあるだろう」そう言うと、男は頭上の太陽へ手を入れて何かを掴んだと思うと、私の目の前へすっと握った拳を差し出しました。拳からは明るい光が漏れています。男はゆっくりと指を開き始めました。開いた手の平には真っ赤な炎を上げた小さな太陽がギラギラする光をたたえて浮かんでいます。あまりの眩しさに目をつむろうとするまもなく、男はその玉へふっと息を吹きかけました。火の玉が猛烈な勢いで私の頭上へ飛んできたかと思うと、バチバチと音をたてて燃え出しました。私は太陽のあまりの熱さに頭がクラクラして、思わず頭を揺さぶって振り落とそうとすると、男は強い力で私の両肩を掴み、なにやら呪文を唱え始めました。
小説ランキングに参加しています。更新していく励みになっていますので、クリックして頂けますようお願い致します
太陽ナデシコ | CM(0) | TB(0) | PAGETOP